判例紹介


無体財産
1.サブリースによる転賃貸借事例において賃貸人の転借人に対する建物明渡請求が信義則上制限さ れた事例

いわゆるサブリースの転貸借事例において、賃貸人が賃貸借の終了をもって信義則上転借人に対抗できない場合があるとして、賃貸人の建物明渡と賃料相当損害金の支払請求否定された。
土地所有者賃貸人は賃借人の協力を得て同人所有土地上にビル建物を建築し、同賃借人は完成したビルを一括して借り受け、そのうちの1室を転借人に転貸した。その後、賃貸人と同賃借人転貸借部分の明渡しを求めた。
東京高裁は、期間満了による賃貸借契約の終了は、それが賃貸人からの更新拒絶によるものであるとしても、特段の事情がない限り転借人に対抗することができるとし、本件賃貸借がサブリースであっても特段の事情があるとはいえないから、賃貸人所有者は賃貸借の終了を転借人に対抗できるとし、賃貸所有者の請求を容認した。これに対して転借人が上告した。
最高裁の上記判決の理由は本件のような賃貸借では転借人による使用収益が本来的に予定されていること、賃貸人も転貸によって不動産の有効活用を図り賃料収入を得る目的で賃貸借を締結し転貸を承諾していること、他方、転借人はそのような目的で賃貸借が終結され転貸の承諾があることを前提に転貸借を締結し所有していることなどの事実関係があったからである。

2.ジーンズの後ろポケット部分の弓形の刺繍につき、不正競争防止の商品表示に当たるとして、これに 類似する標章を付したジーンズの販売行為等の差止請求が認められた事例

米国ジーンズメーカーが後ろポケット部分の弓形ステッチ(刺繍)を標章として長年使用してきたため商標表示として周知性が認められ、これと類似する日本ジーンズメーカーの標章につき消費者少なくとも資本関係提携関係があると誤認混同する。
裁判所は衣服の一部に付けられたシンプルな模様の刺繍による標章であっても、長期間にわたり大量の宣伝広告をした結果、需要者に広く認識されれば、不正競争防止法上の商品等表示製を有するに至ったと判断した。


3.テレビアニメーション映画の原画を作成した従業員が属する会社に原画の著作権が帰属するとした事 例

テレビアニメの各図柄の著作権を有すると主張する原告が、対立主張する被告に対して、著作権を有することの確認と使用差止を求めた事案において、裁判所は本件各図柄は原告の意志に基づき従業員が原告の業務に従事する家庭で職務上作成した著作物であるから、原告は本件図柄に係わる著作権を取得したとして確認請求を容認したが、本件では緊急性はないとして差止請求を否定した。


4. 医師が適切な検査もせず誤診し適切な処置を行わない場合の過失による損害補償責任

患者は過去肺がん治療のため左肺切除の手術を受けその後通院した。10年以上経過の後患者の急性反応性タンパクの値が基準を超える高い水準を続け咳が酷くて治らなかったため数回受診したがその後も鎮痛消炎剤等の処方・胸部レントゲン検査を受けたのみであった。更にその後患者がだるさ及び息切れを訴えたことから被告医師は肺がん再発を擬診し胸部CT検査を実施したが、客観的には肺がんの再発は考えにくく炎症による変化のほうが考えやすい状況であり、他病院の医師が気管支内視鏡検査を行い採取した洗浄液からアスペルギルス菌を検出した。その後も被告医師は患者を直ちに入院させず、その結果患者は肺アスペルギルス症で死亡した。(死亡当時60歳男性)そこで、患者の遺族は、被告医師が呼吸器感染証の症状を呈していた患者に対して病原菌を特定するための検査を行わず、他の呼吸器専門医誤診を受けさせることもなく放置し、患者が肺アスペルギルス症をを発症していると判明した後も緊急入院の措置を怠り死亡させたとして、被告らに対して逸失利益等の賠償を求めた。さいたま地裁は原告の請求の一部金約5500万円の損害賠償(逸失利益2400万円、慰謝料2600万円、弁護士費用500万円)を認容した。


5.十分な事業準備がない段階では客観的な先使用が認められず、特許権侵害を肯定した事例

原告の特許出願より前に、被告が特許発明の実施品に関して顧客から打診を受けて概略図を作成したものの、その製造に必要な強度計算や確定仕様書の作成などを行なった形跡がない等の事実関係の下では、特許法79条所定の「特許出願の際…発明の実施である…事業の準備をしている」とはいえないとして、いわゆる先使用の抗弁が否定し、東京地裁は製品の製造譲渡禁止、商品廃棄、金約2000万円の損害賠償の請求を認容した。


6. 商標の誤認混同のおそれに基づく商標出願の拒絶査定の合法性(東京高裁平成15.10.29)

[管理栄養士」の商標出願は、国家資格制度である「管理栄養士」と誤認混同するおそれがあり公序良俗を害するおそれがあるので、特許庁は出願拒絶の査定をし、高裁はこの拒絶査定を維持した。